視覚障害者柔道の日本代表として北京パラリンピックに出場されたアスリートであるとともに、障害者の雇用コンサルタント会社の代表も務められている初瀬勇輔さん。御自身の半生を記された著書、「いま、絶望している君たちへ」を読了いたしました。
大学生のころに重度の視覚障害となられた「中途タイプ」であることの苦悩、ご本人を絶望の淵から救い出した柔道との再会、現在の「障害者の仕事を生み出す」ご職務についてや、パラスポーツの現在と今後を詳細に述べられています。点字が読める視覚障害者の割合が1割強だったとは知りませんでした。「障がい者」などと言い換えて問題の本質と向き合わない現状を一例に、「障害が社会の側にある」要因を指摘され、健常者・障害者がその線引きを意識することなく共存できる「インクルーシブな社会」の実現のため、私たちはどう変化するべきなのかを記しておられます。
初瀬さんは本著の中で、柔道の祖である嘉納治五郎先生の「精力善用、自他共栄」という言葉を引用されておりました。それは柔道界において、健常者と視覚障害者それぞれの連盟が密接な支援関係を結ぶのが早かった、ということでの引用でした。しかし本著を拝読して、「社会を善くするために全力を用いる」、「自他共に栄えある世の中を目指す」、、、その精神はまさに、初瀬さんの哲学そのものではないかと敬意を深めた次第です。
初瀬さんは、私にとって高校の1学年先輩です。以後、初瀬「先輩」と申し上げますが、私は高校時代剣道部でしたので、練習していた武道場の隣は、当時初瀬先輩がキャプテンを務められていた柔道部でした。私の卒業した高校は厳しい縦社会でしたが、正直に白状いたしますとそれにもまして、当時先輩を筆頭とした1学年上の柔道部の先輩方は多大なる畏怖の念が、、、率直な言葉で申し上げにくいのですが、つまり、怖い先輩方であられた印象がございます。
一昨年の2月に初瀬先輩の御講演に参加いたしましたが、私実はご挨拶の時も小刻みに震えていたのです。ところが先輩には、十数年ぶりの再会にもかかわらず、優しく気さくに応じてくださいました。拙い後輩は、先輩のお言葉一つ一つに感激し、死ぬほどありがたく、うれしかったのであります。その節は本当にありがとうございました。
初瀬先輩は今後東京パラリンピックへの出場を目指されるとともに、「インクルーシブな社会」を目指し、障害者・健常者両側の意識を変えるべく邁進なさると存じます。 健常者の(グルーピングにいる)私たちが、「社会の側にある障害」を軽減するために変えてゆくべき意識、吸収すべき知識とは何か? 本著はそのヒントをたくさん示唆されております。ぜひお読みください!